この六の書は、五の書より続くプルトの国の成り立ちを伝える。
ザカー・ミナスの事を詳しく語ろう。この勇敢な男は、人々をエレシュ山へ逃がしただけでは無い。
我らが長老より伝え聞いた話しを聞くがよい。
エレシュ山の頂きで、彼は兵を募り、サイの都へと踵を返した。
彼は神々の遺産を護る重要な任務を忘れてはいなかったのだ。
もしもこの偉大な遺産の数々がアンゲロス共の手に渡れば、かつてミーチェが闇に染まった時以上の災厄が、この地を襲う事になるだろう。
ここで侵略者共を看過ごしたのでは、人々の明日は到底望むべくも無い。
果たして都には侵略者共が群れ成していた。
サイの都に近づくザカーと兵士たちが目にしたのは、濛々たる土煙の中をうごめき、破壊の限りをつくす、あの忌まわしい侵略者であった。
サイの塔と、その周りの建物の他は全て瓦礫となり、赤土色の荒野へと姿を変えていた。
熱くたぎる血の逆流を覚え、ザカーと兵士たちは龍のような雄叫びを上げ、サイの塔への突撃を開始した。
今度はアンゲロス共が不意を衝かれる番であった。
ザカーの兵士たちは少数と言えども勇敢に戦った。
彼らがアンゲロス共の目を惹き付けている隙を縫い、ザカーが塔の扉に取り付いた。
塔を駆け上がって、ザカーは兵士たちに退却を命じた。
翡翠色の塔は、心正しき主人を迎えて身震いしたかの様であった。
やがて、遠く地鳴りのような音が聞こえ、風が雷鳴を運んだ。神々の遺産は長き眠りから醒めはじめていた。
サイの塔に眠っていた神々の遺産がどのような物であったのか、それは我にも解らぬ。
我らが長老たるアズルド・アモスも、それは語らなかった。
ただ、その計り知れぬ力は、人の伝える話にも残っていると聞く。
ザカーの兵士たちは、エレシュ山へと逃れる道すがら、塔に独り残ったザカーを何度も顧みたと言う。
異変に気付いたアンゲロス共は、逃げる兵士たちを捨て置いて塔へ向き直った。
塔は、その翡翠色の身体に光りを帯びていた。光りに吸い寄せられるかのように、サイに群れていたすべてのアンゲロス共が押し寄せた。
前列のアンゲロスを押し潰し、その死骸を踏み越えて次のアンゲロスが挑み掛かる。
塔の周りは血と肉に溢れ、それでもアンゲロスの波はやまなかった。
だが、塔を傷つける事は叶わなかった。
今やサイの塔の周りはアンゲロス共に埋め尽くされんばかりであった。
同胞を押し潰し、血と肉の中を泳ぎながらも、アンゲロス共は執拗に塔を攻め立てる。
塔はアンゲロス共の邪悪な紫色の血に染まり、悲鳴のような音を上げて軋みはじめた。
そして、それは始まった。塔からは中天の太陽よりも明るい光りが放たれ、辺りは白い闇に包まれた。
塔の先端からは一条の光が、雲を突き抜け、真直ぐに天まで延びていた。
まるで塔がその身を洗うかの様に、アンゲロス共を光に呑み込んでいった。
エレシュ山の頂からもその光を見ることができたと言う。それはまるで、神々の祝福のしるしのようであったと。
その後、サイの都へ戻った人々は、そこにただ何も無い荒野を見るばかりであったと言う。
アンゲロスも、サイの塔も、何もかもが消え去っていた。
ただ、塔の建っていた場所には、白い石の塊が一つ、残されていた。
ザカーの魂は、神々の遺産と共に天に召されたのだろう。
神々はザカーの犠牲を人々の記憶に留めようと考えられて、この石を置かれたに違いあるまい。
プルトが建国された折、人々は塔を建て、これをザカーの塔と呼んで、後に彼の偉業を偲んだ。
今も港で時を告げる鐘桜である。
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