人よ古の話の数々を知って何を感じた。
人の国は移ろい易い。時には心正しい者が虐げられ、邪な者がはびこる事もある。だが、神々は全てを見ておられるのだ。
人の魂が黒い闇に包まれれば、必ずやそれを討ち滅ぼされ、善き魂が安寧の中に暮らせるよう計らわれる。
人は、己の分を忘れることなく、日々精進を心掛けよ。身も、そして魂も。
それは全て神々に授けられたものだからだ。
この書では我のことを少し明かそう。
何も知らずにおれば、人が龍を恐れるあまりに無用な軋轢を生む事になろうからだ。
我はアベンの門が全て閉じられた後、龍族から選ばれてタルムドの森に降り立った。
その日から我は日々変わらぬ暮らしを送り、アベンの門とこの地を見守っている。
タルムドの森は変わり無く、人の国は時には乱れ、時には平和であった。
我は日々、アベンの門の見張りを欠かさぬ。
目覚めればまず門へ赴き、その周りに邪な者共の痕跡が無いかを調べる。無事を見て取ると、我は遠き龍たちと声を交わす。
我ら龍族は音無き声で言葉を交わす事ができる。
それが例え地の果てにいる者であっても、全ての護り龍が応えるのを待って、我はタルムドの森で狩りを始める。
神々の定められた通り肉を獲り、菜を採って糧とするのだ。
狩りをしながら、我はタルムドの森を見回る。
この龍の地へ踏み込もうとする愚か者や、その痕跡が無いか調べるのだ。
人は時として身を滅ぼす好奇心に囚われる事が有るようだが、それは人としての分をわきまえぬ愚行と言うものだ。
アベンの門に触れようと思ってはならぬ。強き者よ、心正しく在れ。
お前はそのような者たちをいさめるべき立場に在るのだ。
そうだ、イムの話をしておこう。あの小さくて白い生き物は木になるのだ。
いつも決まった季節に、イムたちは我の傍らにやってくる。そこで土に潜り、やがて芽吹く。
木が育ち、美しい花をつけると実を結ぶ。我はそれを採り、落ち葉の上に並べてやる。
雪の季節が終わる頃、実はイムとなって動きまわるようになる。
そうしてタルムドの森から去っていくのだ。
我は時として、お前たちの国の周りを飛び、人の暮らしに変わりが無いか、見守ることにしている。
永い間には様々な出来事があった。お前たちの事はお前たちが荒れ地に国を為した時から知っているが懲りずにいさかいを繰り返したり、その中裁を我に頼んだり。
人よ、怒りに囚われるな。心静かに在れ。あまり我の手を煩わせるな。
夜の帳を前に、我は住処へ戻る。
我ら龍族は戦にのみ生きる者ではない。思索もまた、我ら龍族の好むところだ。
夕暮れるタルムドの森で時折訪れるシャイアルの話に耳を傾けたり、以前の試合を思い起こしたり、こうしてこの書を著わしたりして過ごす。音無き声で、近き護り龍と言葉を交わすこともある。
エナが現れる頃、我はタルムドの森で眠りに就くのだ。
人よ、この地はまこと神々の恵みに満ち溢れている。
エナに照らされた森に眠る時、この地が生命で満たされていることを感じ、奇跡を思う。
我ら龍族は神々の言葉に生き、神々の恵みである自然を慈しむ。何故にお前たち人はそれを忘れるのか。
弱き心と、短き命を生き急ぐ運命を負うからなのか。
お前たち人に龍族の心が解らぬように、我ら龍族にも、人の心は計りかねる。
我の書はこれで終わりだ。
この書を開いた強き者が強き魂を持ち、この地の歴史に輝いた勇者たちのように生きる事を、我は望む。
彼らは皆、正しき魂を強き身体に容れ、額には豊かな知恵の輝きがあった。
強き者よ、彼らに学び、神々の恵みに応えよ。我ら龍族は、常に人の側で人を護り続けよう。
護り龍 ガスト・ウル・アルモス
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